次に進む
83)元旦宗谷岬ツーリング2010(その三)_41)
 風も無く穏やかな雪中キャンプ日和に恵まれました。

 2009年の大晦日は大荒れ予報に反して好天のツーリング日和になりました。 それは過去の気象情報の積み重ねが未来に通用しなくなってきている現れかもしれません。 予想外の好天もあれば予想外の悪天もある訳で、この時期の悪天候は交通環境を直撃します。

 猛吹雪による視程不良や積雪による交通障害などの単純な事から、濡れた路面が部分的に凍結するブラックアイスバーンの罠まで様々な危険が存在します。 冬のバイクに限らす冬の交通環境は危険が増大します、それは鉄道も例外ではありません。
 2010年1月29日の昼頃 北海道深川市で
特急列車とダンプカーの衝突事故がありました。
 時速130kmで走る5両編成の特急列車と大型ダンプカーが警報機も遮断機もある踏み切りで衝突しました、列車が脱線転覆すれば大惨事になるところです。

 通常踏切では一時停止をする事になっているので、車と列車が衝突する事は無いと机の上では考えます。

 ところが、酷いアイスバーンでは、車は簡単に止まる事が出来ないという現実があります。それはスケートリンクをゴム長靴で走る事を想像すると近いものがあります。

 停止と発進を繰り返す踏み切りや交差点などが凍結路面(アイスバーン)になると、滑りやすい氷の上でブレーキを掛ける事で、タイヤがスリップを起こしながら止まり、スリップ(空転)しながら再スタートする事で、前後のアイスバーン路面をタイヤが磨き込む状態になります。

 磨かれたアイスバーンは更に滑るようになります、滑るアイスバーンは益々スリップしやすくなります。このような悪循環により、通過車両のタイヤのスリップ(空転)で、ピカピカに磨き込まれてしまったアイスバーンを「ミラーバーン」といいます。

 これは1980年代後半にスパイクタイヤからスタッドレスタイヤに切り替わった時代に、札幌市内など都市部の交通量の多い交差点等に出現するようになり問題になりました。 「ミラーバーン」は交差点を横断する歩行者すら転ばせて、負傷させる程の極悪ツルツル路面です。
強力なスパイクタイヤを履いたバイクでアイスバーンでブレーキを掛けたスリップ痕の写真  スパイクタイヤはアイスバーンに、タングステン鋼のスパイクピンを突き刺して止まります。 対してスタッドレスタイヤは、氷表面の目に見えない微細な凹凸を、柔らかいタイヤゴム面を密着させて、掴み取るようにして止まります。

 スタッドレスタイヤは、その構造上 a) 氷の表面の微細な凹凸が磨き込まれて消滅したアイスバーンや、 b) 氷温を僅かに上回る温度になり氷の表面が溶け始め水が浮いたようなアイスバーンでは全く性能を発揮出来ません。

(写真はアイスバーンで急制動を掛けたスパイクタイヤが、氷の表面に刺さって削っている状態)
 以上の事象をふまえてダンプカーの挙動を想像すると

 遮断機が降りている踏切に気が付き、強くブレーキを掛けたものの、a)の状態で滑り止りきれずに踏み切り内に進入して停止、直ちに脱出を試みるも a)の状態からタイヤがスリップし、スリップしたタイヤの摩擦熱で b)の状態になり脱出不能になり、そこに特急列車が突入してきた。

 これは雪道を運転する自分にも起こりえる事と捉えた想像です。
 
 次に、踏み切りでは警報機と遮断機が正常に作動していたのだから、列車が来る事は遠くからでも明らかに判るはず、 と机の上では考えます。

 もし横殴りの吹雪で警報機の表面が雪で厚く覆われてしまえば点灯しているのか消灯しているのか判別しにくい状態になります。 また吹雪きで視程を妨げられると遠くのものは識別できません。 吹雪の風切り音にかき消され警報音も判別しずらくなってしまいます。

  以上の事象をすべてふまえてダンプカーの挙動を想像すると、

 猛吹雪の悪天の中を走行中に、そこに踏み切りがある事が直前まで判らずに接近してしまい、遮断機の降りている踏み切りに気が付いて、あわててブレーキを掛けた時には既にミラーバーンの罠にかかって、止まれずに踏み切り内に滑り込んでしまった。

 ・・・という事ではないかと、自分にも当てはまる事として想像しています。

 時速130kmで突っ走る特急列車と衝突したダンプカーは、車体が千切れ飛び、ばらばらになりました。 それでも奇跡的に命に別状のない怪我で済んだのが不幸中の幸いです。結果として一度に40人以上の怪我人を出し、復旧に甚大な労力と運行ダイヤの乱れを起してしまいました。

 机上の理屈から単純にダンプカーの運転手を責めるだけではなく、現実問題として事故を誘発する要因について十分に検証されて、事故防止に有益な布石となる事を願っています。

 この二日後の1月31日にも普通列車とワゴン車が衝突、2月3日にも普通列車と乗用車が衝突する事故がそれぞれ別の踏み切りで発生しています。
 
 ここからが本題です
 夏に北海道を旅するツーリングライダーの重大事故は毎年起こっていますが、冬のツーリングライダーの重大事故は今の所聞いた事がありません。
二輪事故防止の啓発ポスターの写真  過去にも冬のツーリング中に転倒骨折事故は何回か起きているようですが、今回の旅の中で冬のバイクについてある町で諭されてしまいました。

 昨年の正月にそこで事故があったらしい、ハンドルを握るからには自分にもその可能性がある。と黙って聞いていましたが、周りの交通の妨げになる「迷惑野朗」に見られるのはなんとも苦々しい

 それでも今の所は小さい事故で収まっていても、いずれ大きな事故が起こるのは確実だと思う。 問題はその形、単独事故であればさほど問題は残らないが、第三者が絡む人身事故が起きた時には問題が複雑になる。

(写真は中標津開洋台レストハウスの張り紙)
想定例 1) スリップ転倒事故
 バイクが凍結路面で滑って転んで対向車線にはみ出し、路面を滑ってくるライダーを対向車が踏んでしまえば人身事故になる。手足を踏まれただけなら最悪踏まれた先から手足がもげても命に別状無いだろう、しかしお腹や胸を踏まれたら恐らく助からない。

 基本的に、中央線を越えて対向車が飛び出して来る事まで想定して運転する注意義務は無いので、車の運転者には重い過失は問われない。 それでも自分がハンドルを握っていた車で人を轢いてしまったという心の傷に一生苦しむ事になる。

 夏の舗装路面では、よっぽどスピードを出していたり無理をしなければこうはならないだろうけど、アイスバーンでは双方時速30kmも出ていれば滑って止まれなくて事故になってしまう。

 もしこれが車同士なら、乗員はシートベルトにエァバッグで守られて命に別状は無い。車が壊れるだけで済む話、今の車は時速50kmで正面衝突しても乗員が致命的なダメージを受けない事を目標に設計されている。

 ところが生身の人間は時速10kmでも時速5kmでも胸やお腹を車に踏まれると内臓が潰れて酷い事になる。
想定例 2) 幅寄せ事故
 圧雪アイスバーンの国道の峠道、交通量が多くタイヤが通る部分だけタイヤと地面の摩擦熱で解けて舗装が出ている。それ以外の部分は硬いアイスバーンと圧雪に覆われた典型的な峠道があったとする。

 そこを夏タイヤの原動機付き自転車がやってきて、轍の溶けている部分の真ん中を走り始める、両足を轍の横のアイスバーンに垂らして滑らせるようにパタパタしながら急斜面にあがきつつ漫然と低速走行を開始する。これを追い抜くには中央線をまたいで大きく対向車線にはみ出さなければならず簡単にはいかない。直ぐに物流の大型トラックが詰まり出し渋滞が発生する。

 漫然と渋滞を巻き起こす迷惑野郎の行軍だ、

 トラックは「集荷の時間」「配達の時間」「フェリーの時間」など、時間に追われて走っている、迷惑野郎に付き合ってる暇は無い

 トラックが一台、また一台と必死の追い越しを掛けて抜いて行く、どんなに罵声を浴びせられようとも迷惑野郎には蛙の面にしょんべんだ、絶対にぶつかってこない事を判った上での確信犯だ。

 空荷のトラックが短い直線で迷惑野郎を抜きにかかった。横に並び、ほぼ抜きかけた時、そこから先はひどいアイスバーンになっていた。もうカーブが迫っているのにタイヤがスリップして加速できない。

 そこに悪いタイミングでガソリンを満載した大型タンクローリーがカーブを抜けて下ってきた。状況を一瞥したタンクローリーは瞬間クラクションを鳴らし、ブレーキをかけた。しかしアイスバーンで滑って減速すらままならない。

 追い越しを掛けていたトラックも同時にクラクションを鳴らしながら、迷惑野郎の生き残る隙間を残して自車線に戻り、タンクローリーとの正面衝突を寸前でかわした。

 2台のクラクションは迷惑野郎が緊急事態に気が付き、急減速してトラックを前に入れてくれれば最悪の事態は防げる事を期待してのものだった。

 しかし祈るような気持ちで覗いたバックミラーには迷惑野郎の姿は無く、後ろの方に迷惑野郎だった物が路面に張り付き飛び散っている。後続のトラックがその前でハザード付けて止まっている。

 救護義務違反にならないようにトラックを停めて現場に行くも、救護という次元ではなく既に後片付けをどうするかという状況だ。

 警察に連絡し、一応救急車を呼んで、迷惑野郎だったものをいくつかビニールシートに集めて病院に搬送して医師に死亡診断書を書いてもらい遺族に連絡する。

 状況としては十分に安全な間隔を開けて追い越しをしていた所、迷惑野郎が勝手にアイスバーンで滑って転倒して、トラックの後輪に飛び込んできたものとして、後日綺麗に除雪された現場で実況検分を行い話をまとめる。

 迷惑野郎は重過失という事で保険が減額されるが、それについて遺族が意義を唱えても何も証明する術が無いので実現しない。

 それでもトラックドライバーには業務上過失致死罪の罪を一生背負う事になる。名前が新聞報道される事でドライバーの社会的立場も苦しいものになり家族もその苦しみを一緒に背負う事になる。

 ここでかつて迷惑野郎に迷惑を掛けられた事のある人たちが口々に冬のバイクは危ないからどうにかできないものか?との議論が沸きあがる可能性がある。バイクは何かと禁止にされやすい。


 ※これは思いつきを書いた想像ですが、いずれこんな事が起きるとかと思います。
安全対策
 「安全運転」「安全運転」と何度呪文を唱えても「効果はありません」 現場の実情に合った具体的な安全対策をしなければ安全は手に入らない。

 それも100%の安全など存在しない、もしそれを実現するなら家でソファーに寝そべってテレビを見ている事だ(笑)

 安全に近付くには「安全」か「危険」という漠然とした捉え方では無く、「具体的な危険」を一つ一つ分析して、それぞれに一つ一つ「対策」をして、その対策の集合体をもって全体の安全率を上げていく、もしくは事故に遭う確立を減らしていく。それ以外に道は無い。

 「安全対策」を練るには「具体的な危険」を判っている事が前提になる。北海道に暮らす人は、冬道の具体的な危険を知っている。それに照らして考えるから「北海道のバイク乗りは、冬にバイクに乗る事をしない」ものだ、その怖さを知らない本州の人々が、たまに真冬の北海道に夏タイヤのバイクでやってきたりする。
下の夏タイヤのバイクは15年程前の元旦の宗谷岬の写真です。
雪道に停められた夏タイヤの原付自転車の写真 足を垂らして走る原付自転車の写真
 元旦の宗谷岬に集ったスパイクを履いた完全装備のオフロードバイクの中に、ポツンと佇む場違いな夏タイヤの原動機付自転車。破れたサイドバックが散々転倒している事を物語っている。  夏タイヤの原動機付自転車を過積載にして足を垂らして走っていく。操縦安定性など望むべくもない。何かあってブレーキを掛けたら、その瞬間スリップ転倒、有無を言わせず路面を滑走する事になる。
正直な話、夏タイヤでも雪道は走れない事は無い
雪道に停められた夏タイヤの大型自動二輪車の写真  ただし、それは
「他の交通が無い場所で」
という絶対条件が付きます。

 左の写真は15年程前に大怪我をして手術を受けてリハビリ中にバイクのリハビリ用に買ったホンダの「V45マグナ」という750ccの大型バイクで、夏タイヤのままで雪道を走りに山奥まで行った時のもの、
 重心を真っ直ぐに慎重に扱う。オフロードバイクの基礎があれば特別な技術は必要ありません。路面状態が良ければ、それなりに走れてしまいます。(両足着地微速移動)
「冬のバイクはタイヤが命」
 宗谷岬に年越しにやってくる連中はその厳しさを知った上で、それに打ち勝つ装備を携えてやってくる。 2010年元旦の宗谷岬に集ったバイク達の足元参考画像
競技対応の高性能タイヤをベースに作られたスパイクタイヤの写真 悪路走破性の高いタイヤをベースに作られたスパイクタイヤの写真
 250ccオフロードバイクのタイヤ かなりの悪条件でも交通の流れに乗って走る事が出来る性能をもっている  110ccの原動機付き自転車のタイヤ ピン数も十分で圧雪アイスバーンを安全に走れるタイヤ
小径ながらも悪路走破性重視のタイヤをベースに作られたスパイクタイヤの写真 自転車用の既製品スパイクタイヤの写真
 50ccの原動機付き自転車のタイヤ 小さいながら接地面に集中的にピンを配置している。荒れた積雪路は厳しいが、締まった圧雪アイスバーンには侮れない威力を発揮する。  自転車ツーリストのタイヤ 走行抵抗とグリップ力のバランスのとれた自転車先進国北欧製のスパイクタイヤ
業務用バイクの既製品スパイクタイヤの写真 業務用バイクの既製品スパイクタイヤを改造したカスタムスパイクタイヤ
 50ccのスーパーカブのタイヤ 耐久性重視で作られたベストセラーの冬タイヤ 先を急がない堅実な走り向き  50ccのスーパーカブのタイヤ、強力なマカロニピンを増しピンして悪条件に強化した改造タイヤ。 低圧で使用出来るようにビートストッパーも装備している。
 「木ネジ野朗がやってきた」 
 今回も木ネジ野朗が一台来ていました。実は昨年も来ていた。木ネジでも行けるのでは?という誤解を招かないように特にこれについては触れないでいました。 以前から、たまたま路面状態が良かった年には「夏タイヤ野朗」と同じく宗谷岬にまで来られてしまう事があるものです。 しかし道中コテンパンに転ぶ事になるので二度と来る事はありません。

 ネジは鉄で出来ていますが、鉄は柔らかい金属です。舗装路面を走ると直ぐに削れ始めます。角が削れて丸くなってしまうとアイスバーンには全く食いつきません。更に舗装路面ではネジがタイヤを浮かせる形で非常に滑るようになります。それは硬いステンレスビス等を使った所でも結果に大差はありません。 木ネジでは冬道の安全は確保できません。(海外ではタイヤの外から捻じ込めるタングステンチップの付いた木ネジ状のスパイクピンが売られているようです)

 木ネジ野朗本人も一度経験してそれが判っているから、無駄な木ネジを打つのを止めて轍の真ん中をもたもた走る迷惑野朗走法に切り替えてしまったようだ。

下は2009年と2010年の比較写真 (写真をクリックすると拡大します)
拡大
 2009年1月1日午前0時35分撮影 昨年はタイヤのサイドにまで木ネジをびっしり捻じ込んである
拡大
 2010年1月1日午前0時9分撮影 今年は、まばらに木ネジを捻じ込んである
 夏タイヤのままだったり、木ネジを捻じ込んだり、縄をまいたりと、
冬を甘く見た装備で北海道の真冬の国道を走るものじゃない。

 どんな理屈を捏ねようとも、厳しい路面状況に直面すれば、物理的に走行不能の現実にぶつかり、結局泣きが入って轍の真ん中をもたもた走る迷惑野朗になってしまう。それも開き直って漫然とやりはじめると手が付けられない。 「旅の恥は掻き捨て」でも「旅の迷惑は掛け捨て」ではない。
 
 こんな個人のホームページに何を書いた所でその効果は知れている。 他を批判する内容は読む側も不快だろうし、記す側はもっと不快なものです。しかし、北海道のバイク好きとしてはっきり意見を示します。 読んだ人がそれぞれ判断してもらいたい。
おまけ
 もしどうしても急場を凌がなければならない状況になった場合は、下のオフロードバイクのように細めのタッピングスクリューをタイヤコード手前まで捻じ込んで頭をボルトクリッパーで落として尖らせるという方法で即席冬タイヤを作ると「夏タイヤ」のままよりはずっと「まし」になります。

 ボルトの頭を飛ばして接触面積を小さくする事で、面圧が上がり氷雪に食い込むようになります。反面舗装路面上ではすごい勢いで磨り減ってしまいます。

 この方法が出来るのはオフロードバイクの厚みのある丈夫なブロックタイヤに限ります。
タッピングスクリューを使って作られた冬タイヤ 元旦の宗谷岬に並ぶ完全装備のオフロードバイクの写真
1990年代中ほどの元旦宗谷岬の写真
 本来のボルトピンスパイクはタイヤに貫通穴を開けて大き目のワッシャーを挟んでボルトナットで締め上げて、チューブに傷が付かないようにタイヤ内側のボルトの頭を透明なシリコンシーラーでコーティングして、タイヤトレッドに飛び出したボルトの先端をグラインダーで削って針のように尖らせます。

 それは公道を走る為のものでは無く、アイスレースといって凍った湖の上で行う氷上レースに使う専用タイヤです。

 ・・・かつてそんなタイヤを履いて宗谷岬に来ていたバイクもありました(笑)
次の写真に進む
表題に戻る
下の写真をクリックしても戻ります
もどるボタン写真